【自作曲解説】andante -アンダンテ- / 鏡音リン・レン

すでに聴いてくださった方も多いと思いますが、先日YouTubeに約6年ぶりとなるボカロ新曲「andante -アンダンテ-」を投稿しました。

この記事では、その新曲について経緯を交えくわしく解説していきます。

目次

kagaminationについて

『kagamination』は、2011年に発行された総勢60名以上による大規模鏡音コンピCD&画集企画です。発行10周年を迎える今年、さらにパワーアップした『 kagamination2 』がリリースされました。

10年前

【鏡音レン】タップ アンド ビート【オリジナル曲】【鏡音レン】タップ アンド ビート【オリジナル曲】

10年前のkagaminationは「タップ アンド ビート」という楽曲で参加しました。

コンピCDに参加する際は、なるべく他のボカロPさんと曲調がかぶらないことを心がけており、このときもその一環として、今まで挑戦してこなかったビックバンド的アプローチを取り入れたと記憶しています。

結果的に多くの方に聴いていただき、カラオケ配信もされ、思い入れのある曲になりました。

そして、まさにこの曲の制作を行っていた日に起きたのが東日本大震災でした。そういった面でも「タップ アンド ビート」は自分の中で忘れられない1曲です。

引退と復帰

あまり知られていないと思うので書いておきますが、私は2018年2月に「ボカロP引退宣言」をしています。そこに至った理由はいろいろありますが、いちばん大きいのは単純に「納得いく曲が書けなくなったから」です。

活動初期(2008~)は、とにかく作曲が楽しくていくらでも書ける状態でしたが、10年で約100曲書くうちに、さすがに引き出しがなくなってしまいました。昔書いた曲よりもいい曲が書けなくなっていることを大変苦痛に感じていました。こうして、キリのいい活動10周年にあたる2018年2月10日、私は引退宣言をするに至りました。

とはいえ、音楽そのものをやめる気はありませんでした。私はかねてより大江千里氏や槇原敬之氏のようなシンガーソングライターに憧れがあり、VOCALOIDではなく自らが歌唱するプロジェクトをすぐに始動させました。これは作曲の行き詰まりを解消するのにかなりの効果がありました。

時は流れ2020年の8月、アンメルツPさんから『kagamination2』へのお誘いがありました。このとき、私はよく考えずごく軽い気持ちで「参加します」と返答しました。なぜか「今だったらボカロ曲も難なく書けるだろう」という考えがあったのです。

苦悩

実際の制作に入ったのは2021年の1月末だったと思います。とりあえずデモを作り始めました。

今回の『kagamination2』のテーマは、「100年後に遺せる自分の証を、ふたりと共に刻もう。」というもの。これが私の頭を非常に悩ませました。

壮大かつとらえどころのないこのテーマを自分なりにどう解釈するか。デモを何十個作ってみても、一向に「これだ!」という確信に至りません。

方向性は決まることなく、冬が過ぎ春が過ぎ、暑くなりはじめた6月初旬。ようやく「これだ!」と思えるアイデアに着地しました。それがR&Bです。

イメージとしてはMISIAや宇多田ヒカル、平井堅らによって一気にJ-POPシーンに浸透し始めた2000年前後のサウンド。これならテーマに沿った、それでいて他のボカロPさんともかぶらない曲が書けそうだと思いました。しかし締切は6月末。もう時間がありません。

間に合わないかもと案じていましたが、鮮明なイメージが脳内に組みあがっていたためか、わりとすんなり、2週間程度で完成にこぎつけました。

新曲「andante -アンダンテ-」

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曲調

Garden (feat. Kenji)Garden (feat. Kenji)

今回の元ネタというかイメージにもっとも近い曲が、1999年発売の「Garden / Sugar Soul feat. Kenji」です。この曲は「C→D→G」という主要三和音だけを使った超シンプルなコード進行だけで構成されているにもかかわらず、リスナーを飽きさせない佳曲であり、この”どこまでも淡々と続いていく感じ”を、どうにか自分の曲に取り入れたいと思いました。コンピテーマにも合致しそうですし。

しかし、自分が作るとどうやっても単調な曲になってしまいました。そのため、Bメロでダイアトニックから外れてみたり、Rapで半音上に転調させてみたり、変化をつけました。とはいえ、基本のコード進行は「A→B→C#m→B(またはE)」で、よくあるコード進行です(4565、4561)。

ボーカルがレンソロでなく、リンとのデュエットなのもテーマとの兼ね合いです。やはり二人そろって歌ってもらわなければ、正確に表現できないと思いました。

タイトル

「andante」は、「歩くような速さで」という意味の速度標語です。今までもこれからもずっと歩き続けていく彼ら(鏡音)を表す、テーマにピッタリの言葉だと思い採用しました。

というのは後付けの理由で、実際はふと頭に浮かんだアンダンテという言葉の響きが単純にいいなと思ってつけました。(ちなみにこの曲のBPM95なのでアンダンテではなくモデラートです)

歌詞

冒頭の”五線紙”をはじめ、「タップ アンド ビート」に出てくる単語を意図的に入れて、前作との関連を意識できるようにしています。

Bメロは、10年前の日本と現在の日本の対比です。1番(波がぜんぶさらって~)では東日本大震災、2番(目に見えない雨~)はコロナ禍を描写しています。

サビは一転、未来や希望を感じさせる明るい言葉選びで、ストレートに主題を表現しました。

ラップの歌詞を書くのは新鮮で楽しかったです。まったく悩まずに書けたと思います。最初はレンだけのラップでしたが、リンを入れてみたら初期のm-floっぽくて良かったので採用しました。

調声

今年からVOCALOID5 Editorを導入しました。これまでV2しか使ってこなかったので戸惑いましたが、人間っぽい歌い回しが簡単にできるようになっているのが素晴らしいです。特にアタックエフェクトの「Accent(1)」「Up(1)」が気に入っていて、フレーズの頭などに多用しました。

ベタ打ち原理主義者の私も今回ばかりはかなり時間をかけて調声を行いました。ライブラリは「鏡音リン・レンV4X Power」です。

これについては、以下の記事で詳しく解説しています。

ミックス

ソリッドでカッチリした音にしたかったため、リバーブはボーカルに薄くかけている程度で他のパートには使っていません。

とはいえ冷たい音にもしたくなかったため、アナログモデリングのプラグインで適度にサチュレーション(倍音)を加え、温かみをプラスしています。

こういう場合、今までだったらUAD一択なのですが、近年アナログモデリングでもっともアツいのは間違いなくPlugin Allianceです。クオリティもさることながら、サブスクで使い放題なのでコスパも言うことなしです。

まとめ

久しぶりすぎる新曲発表や動画投稿で不安もありましたが、とても温かく迎えてくださりありがとうございました。

今後も音楽活動を続けていきますので、なにとぞよろしくお願いしますm(__)m

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