2026年1月14日、長年多くの音楽クリエイターに愛用されてきたPreSonusのDAW「Studio One」が「Fender Studio Pro」として新たなスタートを切りました。このブランド変更が、「Studio One」ユーザーを中心とするDTM界隈に波紋を広げています。

とりわけ、かつて「SONAR」がGibsonに買収された際にふりまわされた私のようなユーザーにとっては、今回のFender化が「SONARの二の舞い」となるのではないか?という懸念を抱かざるを得ません。
本記事では、今回のブランド変更について「Studio One」愛用者の一人として、批判的な立場から意見を述べたいと思います。
使いやすいDAWのままであってくれ!!
Studio OneからFender Studio Proへ

「Fender Studio Pro 8」は、従来の「Studio One 8」に相当するバージョンとしてリリースされました。新UIの導入、Fender公式アンプやエフェクトの統合、AIを活用したオーディオ/MIDI変換機能など、DAWとしての機能強化は多岐にわたります。これらの技術的な進化自体は、制作効率の向上や表現の幅を広げるものとして一定の評価ができます。

しかし、問題は「Fender」というブランド名が冠された点です。PreSonusがFender傘下に入ってから5年が経過し、両社の統合が進められてきた結果としてのブランド変更であると説明されていますが、DAWという汎用的な音楽制作ツールに、何故ギターメーカーの名が冠されるのか?まず、この点に対して心理的な抵抗感が大きい。
Fenderはギターやアンプの分野で確固たる地位を築いている超有名メーカーですが、DAWというソフトウェアの領域においてそのブランドがどのような価値をもたらすのか、あるいは既存ユーザーの期待に応えられるのかという点には疑問を感じます。
過去の事例:SONARの悪夢

今回の「Fender Studio Pro」の登場が多くのDAWユーザーを不安にさせているのは、CakewalkのDAW「SONAR」で味わった苦い経験があるからです。
「SONAR」はかつて、Roland傘下にあったCakewalk社が開発していたDAWですが、2013年にGibson Brandsに買収されました。買収当初は、Gibsonの資金力によって開発がさらに加速されるという期待もありました。しかし、その後Gibsonは経営不振に陥り、2017年11月には「SONAR」を含むCakewalk製品の開発・製造・販売の停止が発表されたのです。

この発表は、私を含め長年「SONAR」を愛用してきたユーザーに大きな衝撃と混乱をもたらしました。突然の開発停止により、ユーザーはサポートを失い、将来のアップデートや互換性の保証がない状況に置かれたのです。
GibsonによるCakewalk事業の放棄は、同社が過去にもDAWソフトウェア(Opcode社のVision)を同様に買収・開発停止させた前科があったこともあり、Gibsonへの不信感を決定的なものとしました。
幸いにも「SONAR」はその後、シンガポールのBandLab Technologiesに買収され、「Cakewalk by BandLab」として無償で提供される形で復活を遂げたものの、この一連の出来事は、親会社の経営状況や戦略によって、優れたDAWソフトウェアがいかに簡単にその命運を左右されるかを示す痛ましい事例となりました。

Fenderへの不安と提言
「Studio One」は、その直感的な操作性と高音質で、PreSonusというブランドのもとで独自の地位を確立してきました。今回のブランド変更は、単なる名称変更以上の意味を持ちます。なぜなら、Fenderという特定の楽器メーカーの哲学が、DAW全体の開発方針や機能に強く影響を与える可能性があるからです。
例えば、ギターやアンプとの連携が強化される一方で、他の楽器やジャンルへの対応が疎かになるのではないか、あるいはFenderのマーケティング戦略にDAWが利用される形になるのではないか、といった懸念は拭えません。
DAWユーザーがもっとも求めるのは、安定した開発体制、継続的なサポート、そして多様な音楽制作ニーズに応える柔軟性だと考えます。「SONAR」の事例が示すように、親会社の都合による突然の方針転換は、ユーザーの信頼を大きく損ないます。
Fenderには、「Studio One」が培ってきたブランド価値を尊重し、短期的な利益や特定の製品ラインの強化に偏ることなく、DAWとしての普遍的な価値と安定した未来を提供することを強く求めたいと思います。
まとめ
PreSonus「Studio One」の「Fender Studio Pro」へのブランド変更は、技術的な進化を伴う一方で、過去の苦い経験を想起させ、DAWユーザーに大きな不安を与えています。
Fenderがこの懸念を払拭し、「Studio One」が築き上げてきた信頼とコミュニティを維持・発展させられるかどうかが今後の課題です。Fenderには、その重責を認識し、ユーザーの声に真摯に耳を傾けることを期待しています。

