YouTubeは、新たなラウドネスノーマライゼーション方式とみられる「DRC」を、一部の動画やユーザーに適用し始めているようです。この機能はまだ試験段階であり、正式なものではありません。
この記事では、現在までに判明している「DRC」の仕様や問題点について、現行のラウドネスノーマライゼーションと比較しつつ、楽曲制作を行うDTMer視点で考えていきたいと思います!
はじめに
今月(2022年9月)に入り、「YouTubeの音声がおかしい」「音質が悪くなった」、そんな声がSNS上で聞かれるようになりました。
いろいろ調べてみると、どうやらその原因は、YouTubeが新たに導入しようとしている「DRC」という機能によるものだと分かりました。
DRCとは?
「DRC」とは、Dynamic Range Compressionの略です。ダイナミックレンジとは簡単に言うと、最も小さい音と最も大きい音の差のことです。この差があまりにも大きいと、音量にバラつきがある聞きづらい音声となってしまいます。
「DRC」は、ダイナミックレンジを狭めることで、動画の音量を一定にする機能であると考えられます。
現在は試験段階とみられ、一部の動画やユーザーのみに適用されているようです。
また、自分でこの機能のON/OFFを操作することはできませんが、アカウントの切り替え(ログイン/ログアウト)などによって、変更することはできる模様(?)。
DRCの問題点①
従来のラウドネスノーマライゼーションは、単純にボリュームを下げるだけであり、音質への影響は最小限にとどめられていました。
一方、新たに導入されようとしている「DRC」では、コンプレッサーによる圧縮が行われます。波形そのものが大きく歪められ、音質が悪くなったように聞こえる原因となっているようです。
DRCの問題点②
また、DRCには大きい音を小さくする機能だけでなく、小さい音を大きくする機能もあるようです。そして、これが最大の問題点です。
・WAVデータ (andante_default.wav) 51.4MB
・WAVデータ (andante_DRC.wav) 51.4MB
画像は「DRC」による波形変化を示したものです。
自作曲「andante -アンダンテ-」をループバック録音(WAV)し、StudioOneに並べました。
赤く囲った部分が顕著に調整されている箇所です。イントロや落ちサビなど、本来静かであるべきセクションのゲインが持ち上げられ、曲全体のダイナミックレンジ(大小差)が狭められていることがわかります。
中でも、ラストのフェードアウトはまったく異なるカーブを描いており、聴き終わりの余韻への影響が考えられます。
逆に、音量の大きい箇所は常にコンプで叩かれているため、天井が低くなったような印象を受けます。
このように、音楽に「DRC」が適用されると、制作者の意図とはかけ離れた音がリスナーに届いてしまう可能性があるのです。
まとめ
いかがでしたか?
大きい音を小さく/小さい音を大きくする、YouTubeの新ラウドネスノーマライゼーション方式「DRC」についての解説記事でした。
このまま本格導入されるのかはわかりませんが、せめて音楽系の動画は除外するとか、ユーザー自身でON/OFF切り替えできるような仕様にしていただきたいものです。